こんにちは。広告技術部の石田です。
Regional Scrum Gathering Tokyo 2020に参加してきました。
この記事ではDay1のJames Coplien(ジム・コプリエン)さんの基調講演について、わたしの感想を交えて紹介します。
Day1基調講演
概要
講演の概要を取り上げると、
- スクラムマスターの使命はチームとプロセスづくりである
- スクラムを実践する過程では、最初はぎこちなくてうまく調和しない時期もある
- だが、次第に余計な部分が抜け落ちて「無名の質」へと昇華する
こういう内容が「十牛図」という禅画になぞらえて語られました。
十牛図の寓話は、牛(=「真の自己」)を探してさまよい歩き、実際に牛を見つけたものの思うように統制できず苦しみ、そして次第に牛との調和が生まれ、最後は牛に頼らないありのままの自分を見出していくというものです。
感想
チームを牛のように手綱を持ってコントロールしようとしても、生産性やプロダクトの価値は上がらないので、チームの調和や、組織や市場と調和していくためのプロセスをつくることが大事なのだと思いました。
職場でスクラムを実践して強いチームを作りたいと思っても、形式的にスクラムをやるだけの状況に行き詰まったり、チームメンバーが付いてきてくれないと感じることも多いでしょう。
しかし、それが実は自分が無意識に管理主義的なやり方で部下をマイクロマネジメントしているだけだとしたらとても残念なことです。
それとは逆に、チームメンバーの自律性を期待するあまり、言うべきことを遠慮するのも健全ではありません。
スクラムマスターはそのどちらにも陥ることなく、チームが本来進むべきゴールから外れないよう誘導してくことが役目です。
チームを牛のように「思い通りにならないもの」と捉えるのではなく、「本当の自分」を見出してチームと関われるかどうかは自分次第なのです。
そういうことを、ジムさんの講演を聞いて感じました。
「無名の質」とは?
内容
そして最終的にチームは「無名の質」に到達するとジムさんは語っておられましたが、「無名の質」とはいったい何なのでしょう?
これは、講演で彼が強く影響を受けたと語った三つの中にあります。
- 中国の『老子』に代表される道家思想(タオイズム)
- 建築家のクリストファー・アレグザンダー氏
- スクラムの生みの親 ジェフ・サザーランド氏
このうち、クリストファー・アレグザンダー氏の提唱したのが無名の質(Quality Without A Name)という概念です。
これは以下の要素で構成されます。
- 生き生きしている alive
- 全一的 whole
- 居心地が良い comfortable
- とらわれのない free
- 正確である exact
- エゴがない egoless
- 永遠である eternal
これらを見ると、確かにスクラムによって実現すべき価値を指しているように思えますね。
感想
生き生きとして・居心地が良い状態は「心理的安全性」に通ずるものがあり、永遠という言葉も「継続的開発」をイメージします。
また、道家思想における「無為自然」という価値も、作為的なことがなく、自然と国が治まっていく有り様を最高と考え、為政者の心得としていますが、スクラムに置き換えるとまさに自律的チーム、ひいてはチーム中心型組織という考え方につながっていくものです。
このように、聴くだけで何だかとても教養が高くなった気がしてくる素晴らしい基調講演でした。